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「だから無理だって~~。あははは」
――ちっ。今に見てろよお前ら。
多勢に無勢。
ブレルトはこれ以上言っても無駄だと判断し、胸に留めた。
「ブレルトも十分強くなったよ。またやろうぜ」
――あぁ、クルス様。貴方はどこまで完璧なの?
両腕を元の絹のように白くて滑らかな肌に戻したクルスの優しさに、ブレルトはまた土下座をしたい衝動に駆られていた。
「それに俺は天才なんかじゃ無いよ。天才って言うのはアイズみたいな男の事だろ?」
「……」
満面の笑みで皆に言うクルスだったが、何故か重たい空気が漂う。
ブレルトを含めた皆は視線を落とし嫌な表情を露骨にしていた。
――やべ!アイズの名前は禁句だった。
外野の一人が頬をヒクヒクさせるクルスを見ると空気を読み、無駄に元気な声をクルスに掛けてきた。
「次は俺ね!お前の十人抜きは俺が阻止するぜ!」
その気遣いに気付いた周囲の者達は、これまた無駄に元気な声で場を盛り上げる事に尽力する。
あるものはクルスに歓声を送り、あるものは挑戦者を励ます。
北極のように冷めた現場はまた熱気を帯び始めたが、直ぐにそれは冷める事となってしまった。
「ごめん!今日はここまで!!」
申し訳無さそうに両手を合わせ、眉尻を下げるクルスは周囲の反応も聞かずにその場を飛び出していった。
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