第一章゛財布編゛奇跡の場所

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「聞いてくれ!」 俺は覚悟を決めてそう叫んだ。 「何よ? 急に怒鳴ったりしてびっくりするじゃん」 彼女が俺の急な発言に驚き、身構える それに気を良くした俺の心の戦士は『さぁ言うぞ』と 気合いを入れていたはずだった。 しかし ……もう一言が出てこなかった。 彼女が話す前に、頑張れ俺の心の戦士。いや天使! 俺はしきりにそう願っていた。 つまり俺の覚悟は結局その程度だった。 すると、彼女がその様子を察してくれたのか、 「まさか、今日の事を忘れてたんじゃないでしょうね?」 そう言ってきた。 俺は慌てて反射的に、 「違う! それは違うよ。でも」 「でも? でも何よ」 彼女の声が拳を浴びせられるかの様に強く突き刺さる。 俺は必死に自分の心を支えながら、喧嘩にならないよう言葉を探した。 「忘れてはいなかったよ、それに今日のためにしっかりバイトもして来たんだ。でもね」 「あーもーイライラするわねでもでもって。でも何なんなのよ? はっきりしなさいよ!!」 彼女は完璧に怒っていた。 本当に怒られる事の前で怒られるなんて。 俺の馬鹿。 俺は半ば呆れながら自分にそう叱っていたが、 考えてみれば今逆に彼女が怒っているおかげで真実を言った時怒りが半減される。 無理やり自分にそう言い聞かせることで無理やり安心した。 そして心の戦士は復活した。 「飲んじゃったんだ」 俺はついに告白した。
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