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第一章゛財布編゛プロローグ
俺は、無性に喉が乾いていた。
だから脱力でブラブラの体をなんとか動かし
頭までぼやけてきた頃、
やっとの事で自動販売機に辿りついた。
(助かった~)
俺はそう思いジュースを飲もうとポケットに手を入れる。
あれ?……。
すぐに手を入れ直してみる。
……財布がない。
その瞬間、俺の体からどっと冷や汗が出た。
急いで鞄の中も探してみる。
が、
やはりない。
俺は自分に「落ち着け」と言い聞かせながら今日の行動を思い出してみた。
が、
やはりいつなくなったのか分からなかった。
その後しばらくそこに立ち尽くしていたが、
結局家に帰る事にした。
「まったく財布を無くすなんてついてないな~」
出しっぱなしの布団に寝転びそう呟く。
俺はそのままゆっくりと、瞳を閉じようとしていた。
その時、脳裏にふとあるワンシーンが蘇った。
あ!?
「思い出した!」
俺は、飛び起きすぐ支度をして、
薄暗い中を自転車でひた走った。
そして途中からは徒歩で進む。
「此処しかあり得ないよな。この丘の上しか、だってこの場所を知っているのは俺だけだし、この丘の上になら!」
俺の心はなぜか
何処から沸いて来たか分からない自信に満ち溢れていた。
おかげで足取りは頂上に近付く度に軽くなる。
そして遂に頂上が見えた。
あれ?
俺は目の前にある物に違和感を覚えた。
そこには確かに何かあった。
でもそれは財布ではなかったからだ。
「手紙?」
俺はその意外な物をおもむろに手に取ってみる。
差出人も宛先も書いていない簡単な手紙だった。
俺は此処までやって来て何も成果がないのは嫌だったので
手紙をゆっくりと開いてみた。
すると中には、
「ありがとうごさいました」
ただ、そう一言書かれていた。
俺はその内容に愕然とし、だらしなくその場に寝転ぶ。
「やっぱり此処から見る星空は格別だな~」
俺は空を見上げ考えてみる。
もしあの手紙の主がここで俺の財布を拾い
その拾ったお金のお礼のために書いた手紙だったとしたら
手紙の主は少しはいい人なのかもしれない。
そう思うと少し気が楽になった。
でも千円ちょっとで一体何が出来たんだろう?
少し俺は少し笑みを浮べ、
妄想してみる事にした。
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