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時刻は正午。
しかし、本来なら空があり、太陽があるはずの場所は漆黒の闇に覆われ、蒼い月が浮かんでいた──
金属同士が衝突し擦れ合う音が止むと、空間に静寂が戻った。
不気味な碧い月光が、操魔兵の屍の山を妖しく照らしている。
操魔兵達が復活しないのを確認して、俺は手中にある剣に目をやった。
(この剣なら大王も……)
そして素早く剣を地面に向けて振り、刃に付着したドス黒い体液を払い落としてから、腰のサヤに納めた。
それを見計らっていたのか、振り返った時には、二人の女騎士が俺の前に立ち塞がっていた。
どうやら、向こうにいる美しい女騎士の護衛らしい。ここから先には一歩も行かせない、といった様子だ。
二人ともずいぶん若く見えた。
ひとりはスラリと背が高く、均整のとれた長い手足を持ち、目に力がある。騎士として恵まれた資質と言えた。
もうひとりは小柄で華奢な印象を受ける。顔つきも幼い。騎士にはとうてい向いてないように思えた。しかし、戦いは腕力ばかりではない。短剣なら非力でも扱えるし、小柄な体格は相手の懐に入るのも容易い。
どちらにせよ、女だからといってあなどると命取りだ。
二人の女騎士が、俺をジッと見つめている。
俺が敵なのか、味方なのか見極めようとしているのだろう。
俺の目的は、悪の大王を倒して世界を元に戻すこと。
当然、俺は彼女達に危害を加えるつもりはない。
だが、彼女らが敵意を向けてくるようなら……俺も剣を抜かなけばならない。
俺と女騎士達の間を、はりつめた空気が支配する。
やがて、長身の女騎士がゆっくりと口を開いた。
視線を外し、なぜか、頬を赤らめて。
「ベッベツに、貴方が来なくたって……全然平気だったんですからねっ!!」
「え……?」
戸惑う俺に向けて、今度は、小柄な女騎士が上目使いで言う。
「あの、あの、『お兄たま(はぁと)』って呼んでもいいですかぁ……?」
「え……?えぇ??」
後でわかった事だが、この二人はこの城の使用人、正真正銘、ただのメイドだった。
操魔兵が襲ってきたのは今回が初めてで、この国には正式な騎士団などなく、城に使える者が武装していただけらしい。
領土があまりに小さすぎるのと、国(街)をすっぽり囲んでいる防壁のお陰で、今まで操魔兵に見つからなかったというわけだ。
そして、姫様が「助けてもらった礼がしたい」とのことで、俺は城に招かれることとなった。
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