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今から二十年と半年、おそらくそのくらい過去の話、僕は東京の二流私立高校に進学した。もともと成績はそれほど悪くなかったし、勉強をすると高熱を出すというような病気も持っていなかった僕は、特別苦労することなくそこに入学した。
その高校で、僕には友達と呼べる人間が極端に少なかった。いや、居なかった。それはあまりに自然で、周りの空気に鈍感な僕がそれに気づくはずもなかった。入学式が終わって一週間ほど経ったある日の夕食、母に尋ねられた。
「あなた、学校で友だちはできたの?」
その時僕はその事に気がついた。――あれ?そういえば友だちって――
特別いじめられていたわけではなかったが、みな僕に自分から近づこうとはしなかったし、また、僕自身もクラスメートに近づこうとはしなかった。それがそのクラスの常識であり、あるいは規則であった。なぜそのようなものが存在していたのか。僕が何かみなと違う異常な性癖を持っていたり、暴走族とつるむような札付きの不良であるというわけではなかった。正直に言うと、今でもその理由がはっきりしているわけではない。ただ、一つ分かっていることがあった。僕のクラスメートたちは、小説をあまり読まなかったのだ。
僕はよく学校をさぼり、家の裏にある小高い丘に登って昼寝していた。そこには世の中の醜いしがらみは無かった。僕を心配する親の目も無かった。ただ、草と土の混ざったにおいが僕と世界を包み込んでいた。そこは僕が安らげる唯一の場所だった。僕は時々はそこで物思いに耽った。今日の夕飯はハンバーグがいいなとか、応援している新人作家の新刊を買いに行かなきゃとか、そんなどうでもいいことを考えた。するといつの間にか時間は進み、クラスメートたちが笑いながら下校する姿が見えるのだ。
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