一章

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 ある日、僕はその姿を眺めながら思った。彼らは辛くないのだろうか。あのように面倒くさいものに縛られて身動きもとれずに、それでどうして笑っていられるのだろうか。疑問は僕の中で次第に大きくなり、最後には張り裂けそうなほどに一杯にした。そして僕はその瞬間、あることに気づいた。いくら僕が彼らを観察し、心を揺さぶられていようと、当の本人たちは僕に気づきもしていないのだ。  その時、僕の中で何かがはじける音がした。それはとても大切な『何か』であるような気がした。頭が真っ白になり、それはだんだんと憤怒の色に染まっていった。僕は辺りにあった草をむしり、木を力いっぱい殴った。拳からは血が出ていた。それを見て、僕はなにかとても恐ろしいことをした気がして、叫びながら世界に命ごいをした。頭が中のほうから猛烈に痛くなった。僕は頭が張り裂けないように、急いで顔を手で覆った。僕はその日、家には帰らなかった。
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