一章

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「同じクラス?」と僕は驚いて言った。「気づかなかったな」 「だって、あなたいつも一人でいたんだもの」と、彼女は言葉に少しだけ抑揚をつけて言った。  そうだったのか。周りの人間を拒絶してしまっている事は自分の五感から薄くとも気づいてはいたが、まさかクラスメートの、それもこのように整った顔立ちの女性すらも目に入らない程とは。僕はほんの少しだけ、自分に呆れの感情を抱いていた。 「君、名前は?」僕はほんの少しだけ、彼女の事を知りたいと思っていた。 「加代子よ」その言葉を待っていたと言わんばかりに間髪を入れず、彼女はそう言った。「名字は知らなくていいわ。だって教えたらあなた、私のこと名字で『さん』を付けて呼ぶでしょう?」 『私、他人行儀なのって好きじゃないの』    *  それからすぐ、加代子はこれからすぐに用事があると僕に告げ、どこかへ走り去っていった。一人になった僕は公園のベンチに座って周りをぼうっと眺めた。人は僕以外に一人としていない。――太陽は既に天高く昇り、辺りの空気を居心地の悪いものにしていた。――しばらくそうしていると、僕の耳に鳥の鳴き声が聴こえた。というよりは、鳴いていることに今気付いた。知らない内にはあんなにも静かだったそれが今、僕に与える不快感は梅雨の蒸し暑さよりも大きいのだ。僕は首を振って周りを軽く見回した。やはり人はいなかった。  体感三十分ほどして、ようやくそうしている事にも飽きた。僕はゆっくりと立ち上がり、足を突き出した。土を踏みしめ、確かに歩き出す。我が家へ戻るのだ。
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