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「着いたわよ。さっさと入んなさい」
そう言って寺本は、繋いでいた手を離した。
「ぁ…」
手に残る温もりが消えて行くのが淋しくて、思わず声が漏れた。
その声を聞かれたかと思うと恥ずかしくなり、寺本を見る。
(聴こえ無かった…のか?)
「ほら、サッサと入る!」
「は?お前は入ん無いのか?」
「え、えっと……私は…」
寺本は言葉を濁し、右手でズレていない眼鏡の位置を直している。
(コイツがこの癖を出す時って…)
―ガラガラ
突然保険室のドアが独りでに開いた。
「な、なんだ!?自動ドアかぁ!?」
「……あんたって、ホント馬鹿よね」
「 何だその残念な子を見る様な目は!! 現にこのドア、勝手に開いただろうが!!」
「違うわ。「様な」じゃ無くて、残念な子を見てるの」
「てめぇ~…」
「あ、あのぅ……カオリちゃん? ど、どうして、須本くん…が?」
小鳥を想わせる可愛らしい声が聞こえ、視線を下げると、そこには兎の様な少女が立っていた。
「ん?お前は確か…深山?って、いだだだ」
(だからソコは殴られたトコ!!抓るなぁ~!!)
「あんたね!!クラスメイトの名前くらいちゃんと覚えときなさいよ!!」
「カ、カオリちゃん、私は…気にしてないから……。ね?」
深山の促され、寺本は俺の頬から指を離したが、俺を睨みつける目は「謝れバカスモト」と雄弁に語っている。
「その…悪かったな、深山」
「え!? あ…うん…」
何故か謝られている筈の深山が、申し訳無さそうに俯いてしまった。
「サユキ…」
寺本は、そんな深山に近付くと、何やら耳打ちをしだした。
途端、深山の真っ白な肌がが、みるみる赤く染まって行く。
(深山って…見てて飽きねぇかも)
「で、でもぉ! 」
「大丈夫よ。もっと自信を持ちなさい」
そう深山に言い聞かせる寺本の顔は、どこか淋し気だった。
「さぁ!二人とも入って!」
「おい、何だいきなり!」
状況が飲み込めないまま、俺はぐいぐいと保険室へ押し込まれた。
「須本ぉ、あんた私の親友に変な事したら…」
(何だよそのピンポン玉を二つ握り潰す様な手つきは!!)
「わ、わかった…(我が身が危険な事は)」
「それからサユキ、頑張るのよ…?…それじゃあね!」
そう言い残し、寺本は出て行ってしまった。
―――
ドアを閉めた私は、まだ微かに温もりの残る手の平を見詰める。
「須本……やっぱりばかだ……私っ…」
廊下には、須本の落とした物とは違う、新しい水滴が落ちていた…。
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