六分の一

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「遅いよ!」  靴箱へと到着した僕を待っていたのは、千穂ちゃんの怒声。  少し気を抜いていたので、結構驚いてしまったのは内緒。 「千穂ちゃんが勝手に行ったんじゃないか」 「むう。そうだけどさ、そうだけどさ」  まあ怒るのも無理ないか、なかなか待たせちゃったしな。  携帯を取り出し時間を確認すると、千穂ちゃんと別れてから約三分が経過しているようだった。 「ていうか、らいくん!早くしないと三十分過ぎちゃう」  ……本当だ。ふざけてる場合じゃないな。  僕達は廊下を走ってはいけませんというお決まりの規則なんか初めからなかったかのように、教室に向かって走った。それはもう、全力で。 「ふう、間に合ってよかった」  教室に入ると千穂ちゃんがそう呟いた。  本当にギリギリだった。もう少しで千穂ちゃんのトラウマがまた一つ増えるところだった。  原因のほとんどは僕にあるけれど。  僕たち二人が席に着くのと同時に教室の前の扉が開く。  そこから現れたのは、恐らくこのクラスの担任であると思われる教師。  歳は三十代後半だろうか、なかなか、というか僕からしてみればかなりなんだけれど、整った顔立ちをしている。  おそらく生徒の間で――男女問わず。人気になるだろうと、僕の勘がそう告げている。  ……ていうか本当にギリギリだったんだな。 「えー、僕は二岡康司(におかこうじ)と言います。 担当教科は国語で一年間このクラスの担任を受け持つことになりました。 よろしくお願いします。 では、早速ですが体育館へと移動しますので着いてきてください」  まるであらかじめ用意されていたような台詞を二岡先生は言う。  まあまるでというか、実際用意されてたんだろう。  ほら、だって今日初日だし。準備期間とかも結構あっただろうし。 「らいくん、行かないの?」  なかなか教室を出ようとしない僕を見て千穂ちゃんは不思議に思ったのか、顔を覗き込んで尋ねてきた。  行くに決まってるじゃないか。  そう千穂ちゃんに返事をすると、僕は他の生徒と同じように、二岡先生に着いて行った。
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