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元より、身体が丈夫な方では無かった。年に2回か3回ほど風邪をひく。
家にこもりがちになるわけだ。外に出て遊ぼうにも、身体の方が気持ちに追い付かないのだから。
尤も、彼の場合は、積極的に野を駆け回る子供を遠目に見て鼻で笑っている様な、あまり性格のよくない子供だった。
ある時、彼がいつものように川原で遊んでいる子供達を小馬鹿にした様な視線で観察していると、そのうちの一人と目が合う。
「うわぁ……」
動揺して、思わず感情が漏れた。
彼と目が合った子供が、ずんずんと、こちらへと近寄ってくる。その手には、飛蝗が後ろ足を握られており、逃れようと懸命にぴょんぴょんしていた。
「……うわぁ」
困惑して、思わず感情が漏れた。
キラキラした顔で、その子供が目指す先は、明らかに彼の方であった。目がバッチリ合っている。
同年代の子供が見せる、面白い何かを見付けた時の顔だ。
「あげるー!」
「い、いらない」
上下に元気よくぴょんぴょんする飛蝗を突き出しながら、猛然と迫ってくる少女を、少年はドン引きした顔で拒絶する。
全力の追いかけっこが始まる。
決着は一瞬だったが。
逃げる少年の背中に、少女は全力のタックルで押し倒すと、少女は嫌がる少年のポケットに疲れてぐったりした飛蝗を捩じ込む。
「最悪だ……」
後に結ばれる事となる、シュウ=ヒイラギと、ミスヅ=ヒイラギの出逢いであった。
「……最悪だ」
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