第二章・後編……【DEAD END CORPSE】

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   ────攻撃が、通らなくなった。  おかしな感覚だ。  鵺の拳でも、固いと感じる敵と戦った事はある。それに、少し前に戦った魔女3人組は、ダメージを被害者と加害者に分散させる【悪因転禍】の能力で、鵺を苦しめた。  しかし、クラハシを殴った感触は、その時のどれとも異なる。人間を殴った感触ではない。  では、何なのかと問われると、鵺は口ごもってしまうが。今までにない経験だった。  殴れないわけではない。だが、手応えが違う。  ダメージが入った気がしない。事実、クラハシは、カウンターを入れてくるのだから。  殴り倒すくらいの力は込めたパンチだ。  クラハシの、運動神経、反射神経がおかしいのではない。クラハシならば、それくらいは、反応して見せるだろう。  おかしいのは、耐久力だ。あれを食らって、反撃出来るというのが、有り得ない。  鵺という存在は、世界最強最硬の物質と云える。ダメージを逃がす技術を用いたとしても、限界があるだろう。  反撃する余裕なんて、ない筈だ。それでも、反撃してきたとなると、からくりがあるに違いない。  ────クラハシのハイキックが、鵺の首筋に叩き付けられる。容赦のない一撃だ。  それこそ、殺すつもりの。だが、鵺の肉体は、蹴られながらも反撃を放つ。  高角度から、振り下ろす様な右ストレート。 「なるほどなぁ」  鵺は、理解した。  思えば、まともにやり合うのは、これが初めてではないか。黒匣使いとは。  以前のクラハシにはなかった。  以前のクラハシでは出来なかった。  その小細工は。 「思ったより早かったな」  クラハシは、鵺の理解に、意外そうな顔をする。 「もっと時間が掛かると思っていたが」 「バカにすんな」  とはいえ。そう、複雑な話でもない。 「なるほどな。黒匣武装、か」  人類の肉体を遥かに超越した強度の化物。肉食と戦う手段。  戦えるという事は、相手の防御力を打ち破れるだけの攻撃力があり。そして、相手の攻撃力を受け止めるだけの防御力があるという事。  それが、黒匣武装。  人類の天敵への対抗手段。  その強度は、全人類最強の個人の攻撃に対し、決して無力ではない。無効までは持っていけなくとも。  軽減は出来る。後は、技術でカバーだ。  それこそ、クラハシが磨き積み重ねたもの。肉体への後付けだ。
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