序章:雪の中のお話

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「チクショウ! こっからは何を……一体何をしたらいい!?」 男は焦っていた。理由は簡単だ。出産の『知識』というものが限りなく少なかったのである。 誰だってそうだろう? テストが全くわからなかったら、普通の奴なら焦るはずだ。 それと同じ。 ただ違うところといえば、得ようとしているものは『点数』なんかじゃない。二人分の『命』だ、という事。 「はぁ、はぁ……大丈夫、私は、大丈夫だから」 しかし、唯一の救いだったのは、女の方が最低限の『知識』を持っていた事だろう。 お湯、タオル、呼吸法……他にも出産に必要な『知識』が女にはあった。 「…………でも」 それでも、男の不安は消えない。 「大丈夫……私を、信じて」 今にも消えてしまいそうな儚い声。でも、その声はとても力強かった。 「……………………わかった」 女の手をギュッと握りしめる。男は覚悟を決めた。
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