序章:雪の中のお話

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「――や、やった」 そして、その泣き声につられたのか、二人も涙を流していた。 「やったぞ! 産まれた! ハハっ、スゲェ。さすがお前だ! さすが俺の嫁さんだ! 元気な男の子だぞバカヤロー!」 「うん! うん!」 素直に喜びを分かち合う二人。 「………………………」 それを外で眺めていた男にも、頬に一滴の雫が流れていた。 「すまない……本当にすまない」 その雫は雪が溶けたものでは決してなく。 暖かい、一人の娘を想う優しい優しい父親の涙。 だがその涙はたった今産まれた赤ちゃんにとって、 「オギャー、オギャー!」 雪よりも冷たく、ひどく残酷な『涙』だった。 日付は2月3日。 時刻は午前0時02分。 この瞬間、運命の歯車は強引に回り始めた。
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