序章

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芹沢が大声で叫ぶ 女給の娘の手首を掴み 「姉ちゃん。のう。春はどうじゃ?」 娘の顔はみるみる青くなり 大柄でいかつい芹沢の顔は 酒のせいか赤らんでおり さながら赤鬼のようだった 面の客は それをさっきと何も変わらない様子で眺め 「 」 何かを呟くと 席を立った 芹沢に掴まれている女給の横を通り過ぎる瞬間に 何かを芹沢に刺した 遠くに居る者は勿論 近くに居る者ですら 気付かなかっただろう 芹沢の首に刺したのは 針灸に用いる針だった 人身に使うため殺傷能力は極めて低い だが 人の体を良く熟知している者なら 気絶等の効果を期待しても良い 針が刺さった刹那 芹沢の腕は痺れた その一瞬をついて 客は女給の体を そっと自分の方へ寄せ 逃してやる そして耳元で 「災難やったな」 と呟く 食堂に居た客は気づいてない たった一人 用心棒の如く 入口に立っている人物を除いて
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