48人が本棚に入れています
本棚に追加
芹沢が大声で叫ぶ
女給の娘の手首を掴み
「姉ちゃん。のう。春はどうじゃ?」
娘の顔はみるみる青くなり
大柄でいかつい芹沢の顔は
酒のせいか赤らんでおり
さながら赤鬼のようだった
面の客は
それをさっきと何も変わらない様子で眺め
「 」
何かを呟くと
席を立った
芹沢に掴まれている女給の横を通り過ぎる瞬間に
何かを芹沢に刺した
遠くに居る者は勿論
近くに居る者ですら
気付かなかっただろう
芹沢の首に刺したのは
針灸に用いる針だった
人身に使うため殺傷能力は極めて低い
だが
人の体を良く熟知している者なら
気絶等の効果を期待しても良い
針が刺さった刹那
芹沢の腕は痺れた
その一瞬をついて
客は女給の体を
そっと自分の方へ寄せ
逃してやる
そして耳元で
「災難やったな」
と呟く
食堂に居た客は気づいてない
たった一人
用心棒の如く
入口に立っている人物を除いて
最初のコメントを投稿しよう!