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佐藤くんに、島田くんに見せる笑顔を向けたことは無いし、ドキドキしたことも不安がることだって無い。
「ごめん、小野寺」
「…うん」
「やっぱり真央と話して分かったって…ゆうか」
「うん…」
うん。
それからずっと、耳に入ってくる言葉を聞き流すように。
ずっとずっと、頷いてばかりいた。
2人が頭を下げて教室から出て行った後、まだ残っていたクラスメイトが「また明日…ね?」と小さく別れの挨拶をしてくれた。
けど、その言葉にも頷くだけ。
静まり返る教室に誰も居なくなったことを悟ったワタシの目に、また涙が込み上げてくる。
「俺、何か言えばよかった?」
ビクッ
溢れそうになっていた涙は一瞬にして止まった。
そのせいで、視界がボヤけて見える。
…佐藤くん?
そうだ…いたんだっけ。
「…別に。弁解するほうがおかしいよ」
「あっそ」
早く出てってくれればいいのに。
「帰らないの…」
床を見つめながら聞く。
「んー…帰らない」
本当、分かってくれない人。
近くにある自分の鞄を早々に取って、教室を出て行こうとした。
「帰るの?」
「……」
「泣くの…?」
「……っ元はといえば」
「うん?」
…違う。佐藤くんがチョッカイ出して来たからとか、そんなの違う。
不器用なワタシが器用に恋愛出来てた保証なんて無い。
自分ばかりが不安がってると思ってたけど、島田くんもそうだった。
ワタシが下手だった。
「恋愛、難しい?」
……佐藤くん。
「…佐藤くんって」
「……」
やっぱり。
「優しくないね」
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