四月

2/3
前へ
/63ページ
次へ
ああ、女つくっとけば良かったな。 真新しい制服に、今だ息苦しいネクタイ。 かかとが潰しにくい靴に、しめが悪いベルト。 うんざりだ、桜木洸は早々にそう思っていた。 口から我知らずため息がこぼれる。 せっかく金に染めた髪が、まるでくすんで見えた。 入学式だと言うからに、辺りは人でごった返しになっている。 人混みは苦手だ。 酸素が薄く、汚れているように感じる。 洸は母親を体育館に残し、外に出た。 校門には先程から人しか見えず、しかも野郎ばかりという現実に頭が痛くなる。 黒糖高校、今日から俺が通う高校だ。 体育館裏手、桜の木の下で再度考える。 野郎ばかりの高校で、県下一有名な不良が集う高校だ。 「喧嘩ねぇ……」 ポツリともらした声は、桜の葉が隠してくれる。 自慢ではないが、喧嘩はできる方だ。 ただ強いかと言うと、そうでもない。 でも弱いかと言われると、そうでもない。 平々凡々、そう言われると、頷くしかできない。 ふと、風にまじり鼻につく香りが洸を横切った。肺にたどりついて顔をしかめる。 少しだけ面を上げると、自分でも驚く程近くに奴はいた。 「あ、」 「よっ」 よ、なんて手を挙げられても困る。 口にはさんだままの煙草から、煙がでた。 「ここばれにくいよな、吸うのに」 「俺吸ってないし」 「え!?冗談は顔だけに」 「しませんがな!」 .
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加