四月

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煙草は苦手だ、どちらかといえば。 そんな洸の意見に、大いに笑い転げたのは宍倉蒼司だった。 「おっ前、金髪ぢゃんか」 「あんたにいわれたくなーい」 「俺はオレンジ色!」 「少し濁った?」 そい言うと、また腹を抱え始める。 ソウジはオレンジ色の髪にピンをいくつかとめていて、モロチャラ男ですと言っているようだった。 煙草が音をたてて地に落ちる。 「な、名前教えてくんね?」 「ごめん事務所通してー」 洸の切り返しが面白くて、蒼司は再度腹を押さえた。 喉からひっきりなしに音がもれる。 桜の花びらが額にかかり、頭を振った。 「お、俺、ししくらそうじ。元中、分かる?」 蒼司が問いかけると、洸は首を捻る。 元中と言えば、ここら辺一帯の中学を牛耳っていた学校ではないか。 「おぉ、元中か!すげっ」 正直に口を出せば、蒼司は些かびっくりとした様に目を見開いた。 元中と言えば、そう、ここら辺を支配していた元郷中のことである。 変な奴だ、蒼司は顎に指をからめた。 元中というからには、まずびっくりするか、尻込みするか、はたまた逃げ出し始めるか。 まれに、敵意の目をくれる者がいるが、無論まれに、だ。 「あ、元中って胸でけー先公いるって本当?」 しかし、こいつはなんだろう。 目の前で、別段驚くこともなく、敵意を向けてくることもなく。 金の前髪を右手で持て遊びながら、笑っている。 フッと口元が緩んだ気がして、蒼司は左手で唇を隠した。 そうして、桜の花びらが洸の額におちて。 黄色とピンクはあわないな、なんて思いながら、人差し指でひけてやる。 「あぁ、いるよ」 そんな、四月の話。 .
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