五月

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ここ最近のことで。 名前を呼ばれては、こうして物騒にも暴力が始まる。 所謂、喧嘩というものだ。 トマト蒸しパンを落とさぬよう、右に避けた。 よけられた右足のおがけか、はたまた足場がよくないおかげか、相手はバランスを崩す。 逆に洸は、滑る足場を利用して、180度旋回した。 今は、目の前にこけた相手と、背後に移動した洸が渡り廊下を貸切にしている。 数秒の沈黙のあと、相手は悔しそうに舌打ちをした。 「……大丈夫?」 どこか足を捻ったのか、洸はかがんで相手を見る。 黒髪、短髪。 サッカーでもしていそうだな、ふと思った。 「おい、ひねったのかー?」 洸が何度言っても、相手はうん、ともすん、とも発しない。 「おーい!すんぐらい言いなさい、サッカー少年よ!」 「誰がだ!死ね!」 「生きる!」 キッパリ、真面目な顔で言いきったこいつを、どうしたものか。 柄塚夾は少しの間、唖然としてしまった。 渡り廊下には、雨音が静かにおちる。 .
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