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「カラヅカ、10組の桜木知ってるか?」
少し前、そんなことを蒼司から問われた。
10組なんて、1組の俺達が知るはずもなく、首をもちろん横に振る。
元中のキョウにとって、蒼司は偉大な存在だった。
そんな奴の口から、直々に名前がでてくるなんて、思わず飲んでいたアップルティーのパックをへこます。
「面白いからさー、今度会ってこいよ」
──面白い。
先ほどまで潤っていた口腔が、一気に乾いた気がした。
夾は、自分が飢えていたのかと、首を捻る。
喧嘩がしたい。
16の俺達には、十分な理由だった。
初めの一回は、わざわざ、わざわざだ。
1組から10組の教室までいって、呼び出した。
桜木は怯えるでもなく、やる気でもなく、そんな感じで。
金の髪から覗く瞳は、何を考えているのか、よく分からなかった。
──身長もそこまでなければ、がたいもあまりよろしくない。
夾が少しだけ肩をおとしたのは、今でも秘密だ。
「お前が桜木、」
「洸でっす」
いや、下の名前をきいた訳ぢゃないのに。
洸は一度ニッコリ微笑むと、持っていたパンにかじりつく。
平々凡々、そんな言葉が似合っている。
夾は至極真面目に、口を開いた。
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