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しかし、ハンスは意志を曲げる気は毛ほども無いようで「だったら、一つ頼み事を聞いてくれ」 と交換条件を持ち掛けた。
「はい、私に出来る事でしたらお手伝いしますよ」
手放しに好意を受け取る事へ抵抗があった青年としてもそっちのほうが気楽で有り難い。彼は「頼み事」の内容を想像しながら次の言葉を待った。
ところが宿主の願いというのは、またしても青年の予想を覆す。
「飯を食う時にだ。酒に付き合ってくれ」
ぶっきらぼうな言葉の真意を計りかねて普段は凛然としている青年が面食らった表情でたじろぐ。
「ええと……そんな簡単な事でよろしいのですか?」
一緒に酒を酌み交わす、そんなことが与えられた恩恵の対価として見合うのか判断しかねている。
何かを得るにはそれ相応の代償が要求されるのが常である。
当然だ。欲しい物が欲しい分だけ手に入るなど夢庵でしかない。
だが今この状況で何を失うのだろうか?
難しい面持ちで考え込む青年を見てにんまりとしたハンスの掌がその肩を軽く叩く。
「おまえにとっちゃ簡単なことだろうが、俺からすれば重要なことさ」
あまりにも快活なその様子に、細々しく頭を抱えていた自分が馬鹿らしくなってきた彼はフッと体の力を抜く。そして、知らず知らずのうちに綻んでしまった自然な表情で軽く会釈をした。
「わかりました。お気遣いありがとうございます」
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