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俺は、天を見上げた。
見上げなければいいのに、頭上に落ちる巨大な影の正体に内心感づきながら、それでも、見上げた。
「キュウウッ!」
甲高い鳴き声が、聞こえる。
巨大なクチバシをキンキンと鳴らしながら、翠の両羽をバサバサと羽ばたかせ、オウムに似た姿をした巨大生物は俺を見る。
ヴァイラス。二日連続で俺は悪夢と相対す。
「……!」
こんな真夜中、俺以外の人通りはない。
仮に人通りがあったとして何だ。
誰が俺を助けてくれる?
終わりに、決まっている。
「なんだよ」
今度は気絶しなかった。
代わりに俺は、ため息をつく。
「死ぬのか、俺」
何にも生きる意味を見いだせず、ただこいつに食われて、死ぬ。
「いいのか、俺」
俺はなげやりに、自分に問うた。
――いいわけが、ない。
二度目の邂逅は、恐怖ではなく、悲しみが押し寄せた。
死にたくない。そんなの当たり前だ。
ああ、なんて情けない。どうせなら俺も死んでしまえばと思っていたくせに、いざ死を目の前にすればこうかよ、みっともねえ。
ああ、そうだ。俺は死にたくない。だって俺まだなにもしていない。せめて、せめて一回くらい。
「生きててよかったって、思わせてくれても、いいだろ……」
涙。
溢れた滴が地面に垂れる。
ポタリ。
そして、滲んだ視界の中に。
「――その願い、叶えるよ」
天使が、現れた。
「え……」
真っ白な服に、真っ白な肌、真っ白な髪。
背中には真っ赤な四枚の羽を生やし、その羽は羽ばたくことなく、天に向かって鋭利に伸びている。
天使は、ヴァイラスの更に上から舞い降りてくると、そのままヴァイラスの巨大な頭に拳一閃。
キュウッと悲鳴のような鳴き声を上げて、ヴァイラスは殴られた方向に飛ばされると、バタバタと翼を羽ばたかせて体制を整え直す。
「ユウだろう、その声は」
「……し、めい?」
天使は、静かに俺の横に降り立った。
見間違いようがない。その赤い翼さえなければ、彼は間違いなく。
俺の、親友。
天神 使明その人だった。
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