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「使明ーーッ!!」
彼の身体がドサリと地面に落ちる。
その身体に駆け寄り、俺は彼を抱き上げた。
「……ッ!」
赤い血が俺の手を汚し、指の隙間からボタボタと大量の真紅が溢れ落ちる。
――死ぬ。
直感で俺は理解した。
このままでは、彼は、死ぬ。
「……ユ、ウ。さが……って」
「馬鹿言うな!!!」
親友がこんな状態になってるって言うのに、尻尾巻いて逃げ出す奴がどこにいる。
俺は使明の身体をコンクリの地面に仰向けに横たえると、未だ空を支配する怪物と相対した。
「化け物……ッ!!!」
「ギュアアアッ!!」
かつてあったはずの恐怖はどこへ消えたか。
かつてこの胸を巣食っていたはずの不安と、絶望は、どこへ消えたか。
――不可解は、相変わらず、そこにある。
不可解は不可解のまま未解決でそこに存在し、本来ならば俺の恐怖になりえるはずであった。
先日、ヴァイラスを打ち倒した『何か』。
この町に存在する、未知の力。
昨日気絶する前に、かすかに見えた天使の姿。
その正体は相変わらず不明で、何故『彼』にそんな力があるのか、その四枚の羽は何なのか、不可解は相変わらず不可解――、だが。
『彼』が俺の親友だったと言うだけで、最早その不可解は俺の恐怖の対象ではなかった。
今俺にあるのは、その親友を守らなくてはと言う使命感、それだけだ。
「キュオオッ!!」
ヴァイラスが此方に向かって来る。
俺は慌てて横に転がるようにして、それをかわした。
耳元で風を切る轟音が響く。
耳が痛い。
「ハァ……、ハァ……ッ!」
どうする?
このまま俺がこいつと対峙していたところで――、ヴァイラスを倒すことなど、俺には出来ない。
軍の応援が来るまで、使明を守り続ける事だって、当然出来ない。
「!」
再び、ヴァイラスが此方に向かって鳴き声を上げながら迫る。
俺は再び避けようとして、不意にはしった足の痛みに眉をしかめた。
「くッ……!」
――さっき無理やり避けた時に、足を痛めたのか……!
迫るヴァイラス。
近づく羽の音。風の音。
「……ッ!!」
間近に迫る、死。
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