プロローグ:親友

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「ユウ!!」 ――その迫っていた死は。 「使明……ッ!」 赤き天使の両腕によって、寸前で阻まれた。 「ギュ……キュウ……ッ!!」 その巨大な口ばしを正面から両手で掴み、ヴァイラスの進行を強引に妨げる使明。 ズリ、と。彼の足が僅かに此方に向かって下がる。 バサバサバサとヴァイラスが力強く羽を上下させた。 「くッ……!」 押し負けつつあるのだ。 更に下がった彼の足が、それを表している。 苦しげに息を吐く使明。 ボタボタと大量の血が彼の腹部から地面に落ちた。 血溜まりで更に滑りやすくなったコンクリの地面の上を、彼の足は更に後方へズリと下がっていく。 「ユウ……!」 荒く呼吸をしながら、彼は俺の名を呼ぶ。 「君を……、守る……ッ!!」 赤い翼が更に強く光った。 街灯の明かりだけで照らされていた周囲を、真っ赤な血の色で染め上げていく。 「ギュ……ウウ……!」 ヴァイラスが苦しげに声を上げた。 メキメキと、何かの軋む音。 「うああああああああッ!!!」 叫び声。 一瞬後。 「キュ――ッ!!」 ヴァイラスの口ばしが、彼の手の中で、砕けた。 翼を広げて痛みにのた打ち回るヴァイラス。 その身体めがけて、彼は走る。 「跡形も無く――、溶け失せろ!!」 彼の拳が、ヴァイラスのその胸部を貫き。 そして彼はそれを、思い切り引き抜く。 ブシュウウと赤い血がヴァイラスの傷口から噴き出す。 そして、その僅か数秒後。 ボシャリと、はじけるように。 突如、形と言う概念を失ったかのように。 ――ヴァイラスは赤い液体となって、溶け消えた。 そこには、先日見た巨大な血痕を彷彿とさせる赤い血の海が、出来ていた。
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