プロローグ:親友

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脇目もふらず、俺は逃げ出そうとする。 が、足は俺の言うことを聞かない。 思い切り転んでしまった俺は、恐怖のあまり後ろを振り返れず、ガタガタ震えながら四つん這いの姿勢で固まってしまった。 怖い。 怖い。死ぬ。嫌だ。痛いのは嫌だ。死ぬのも嫌だ。怖い。嫌だ。嫌だ。怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いこわいこわいコワいコワイコワイ。 どろどろに溶けた思考は、言葉を言葉として認識することすらできず、ただひたすらコワイと言う感情を現す記号で埋め尽くされた。 俺は振り返れない。 世界から音が消えた。 視界が歪む。 俺は振り返れない。 『奴』はもう、どこまで来ているのか。 食われる。 俺は食われる。 振り返れない。振り返れない。 「――」 そして。 俺の恐怖が、臨界点を、超えた。 つまり。 俺の意識は、ぷつりと、切れた。 消えていく視界の中。 最後に一瞬だけ。 『天使』を、見た気がした。 ――さようなら。
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