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――そこは天国だった。
いや、そこはそんな幸せなところじゃない。
――そこは三途の川だった。
いや、そこはそんなしあわせなところじゃない。
――そこは地獄だった。
イヤ、ソコハソンナしあわせナトコロジャナイ。
――そこは現実だった。
悲しみと虚しさと絶望で、最後には自分の不幸すらも忘れてしまう。ワスレテシマエバイイノニネ。
――つまり結論から言って。
「……星だ」
俺は生きていた。
情けなくも、無意味にも、無様にも、生きていた。
俺は道路の上に、正確には踏切の手前で、仰向けになって気絶していたらしい。
気絶する前は夕焼けだった空が、今こうして目を開いてみれば大して美しくもない星空が広がっている。
「……」
俺は身体を起こした。
痛みもなければ、当然怪我もないみたいだ。
……夢?
頭に浮かぶ一文字。
……で、どこまでが?
対し、疑問。
周りを見渡してみる。
「……!」
息をのんだ。
俺のすぐ横に、真っ赤な染みが道路に広がっている。
人間一人分では確実に足りない量。
まさか、ヴァイラスの……。
「有り得ない、か」
ヴァイラス一体を倒すのに、どれだけの戦力が必要だと?
戦車を一機持ってきても返り討ちにあうかもしれないのに、ヴァイラスにこんな怪我を負わせるだけのことをして、周りの建物がこれだけ無事で、ましてや近くで気絶していた俺が無傷でいられるはずがない。
つまり、夢だったのだ。
夢でいい。夢にしておこう。
そうだ。隣にある巨大な血痕なんて。
「……」
何かの冗談に決まっている。
俺は立ち上がると、足早にその場を後にする。
一刻も早く、自分の家にたどり着くため。
――ヴァイラスの被害が極端に少ない町、か。
今更ながら俺はこの町に対し。
違和感を、覚えた。
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