1349人が本棚に入れています
本棚に追加
思えば俺は、何の疑問も持たずにこの町へやって来た。
考えることを放棄して、今の今まで生きてきた。
何故、ヴァイラスの被害がこの町は少ないのか。
他の町と比べて、何か違う点などないじゃないか。
俺は早歩きで歩道を進み、歩道橋をかけ上がる。
何でこんなに平和なのだろう。当たり前ではない。不可解な平和。ありえない平和。歪んだ常識。狂った世界。
息を切らしながら俺は走った。
汗がほほを伝う。不思議と、身体は熱くならない。むしろ、寒い。
「はぁ……っ、はぁ……っ!」
俺は。
家についた。
現在部屋を借りている、二階建てのアパート。木造の、築何年かなんて知らない、古い建物。
104号室が俺の部屋。
俺は、扉に手をかける。
ああ。くそ。
俺は、何で、生きているんだ?
時間が、漸く俺の頭に冷静な思考を戻してくれたようだ。
おかしいだろ。有り得るわけがないんだ。
ヴァイラスを目の前にして、どうして俺は生きているんだ。
あの血痕がヴァイラスのものだとして――。
俺が気絶していた間に、一体何が起こったんだ?
自分の想像を超えた何か、それが起こったのか。
――この町は、ヴァイラスの、被害が、極端に、少ない。
もしかしたら。
俺が気絶していた間に起こった『何か』。
それこそが、その事実に繋がる理由に――
「……」
俺は扉を開いた。
明かりのついていない部屋の中を歩きながら、手探りでベッドを探しだし、倒れこむ。
夢だ。
たちの悪い冗談だ。
考えるな。考えたくない。だって。
俺は、怖くて、たまらない。
うん。
眠ると、しよう。
おやすみなさい。
最初のコメントを投稿しよう!