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【片時雨】①
近頃の俺ときたら、ベットに寝ている女の、唇から頬、髪に触れるたび、どうやって殺してやろうかと、考える。
けど…女が薄く目を開き、はにかむ度、男の殺意は切なさに代わり、それ迄の気持ちを、笑顔で言葉にする。
その一言は陳腐な言葉ながらに重い言葉。
「あいしてる」
そう言うと、女は安心したようにクシャっと笑い、眠り姫に戻ってゆく。
これが繰り返される男の日常なのだ。
女の顔は30後半だというのに、まるで老婆の様な深い深い皺が刻まれ、体は細く枯れた枝の様になっていた。今では上半身を起こすことも出来ずにベットに横たわっている。
長く伸びた髪は水分無くパサついてはいたが毎朝男が整えて要るのか綺麗に揃えられていた。
空気を入れ換える為、窓を開けると綺麗に揃えられた髪が微かに乱れ、その様子を男は目を細めて見詰めていた。
「もう、潮時かもしれないね…」
六月にしては珍しい程の良い天気に当てられ軽く頭痛を覚えたが、湿った気分を干すには調度良い空だった。男は、胸ポケットに仕舞っていた煙草を一本手にとり火をつけずにくわえ、目線を庭へと映した。
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