サイボーグだ!

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それは、なんて事のない普通の判断だ。取捨択一、当たり前の選択だ。 見たくないものを見てしまった。この男の子にしても見られたくなかっただろう。最後に彼に向かって手を合わせた。これから死にゆく者に何を願ってやればいいのか分からなかったのが、とにかく手を合わせ祈った。 「……ぁ」 すると、音がした。声がした。声が聞こえたのだ。心臓から口が出るどころじゃない、心臓から元気玉が飛び出るくらい私は驚き目を開けた。 「……ぁ……あ」 更に驚く事に今にも掠れそうなその声は私が手を合わせ祈っていた男の子の声だったのだ。 まったく人体とは不思議なもので、こんな状態になってもまだ彼は生きていた。消え入るように小さな呼吸をして、彼は虚ろな目で私を見つめていた。もう声は聞こえなかったが、彼の口は今なお動き続けていた。一体何を見ているのだろう。一体何を伝えようとしているのだろう。私には分からない。分かるはずもなかった。 しかし、この瞬間を彼が生きていたとしても、だからといって生き続ける事は出来ないだろう。例え意識があろうと、こんな状態の人間の命を繋ぎ止める医療など存在しない。このまま衰弱して死んでいくだけだ。 …………だけど、と私は考える。だけど私なら、外ならぬ“天才”雪咲白百合ならば、彼を救えるかもしれない。 人体の機械化。普通は手が不自由だったり、何らかの病によって臓器を損傷してしまった人に使う技術だが、それを使えば助けられるんじゃないだろうか。
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