姿なき声

5/6
前へ
/181ページ
次へ
徹と名乗った彼は、ただの通りがかりで、私達の知り合いだとか、祖先だったりというわけではないらしい。 ただ、母と私の悲しみが強くて覗いてるうちに、心配で動けなくなったという。 今まで一人で悩んできた事を、泣きながら徹に訴えた。 徹は時折あいずちをうちながら、私の気がすむまでつきあってくれた。 姿がないとはいえ、優しさが伝わってくる声に、私はすっかり気を許していた。 「兄貴がいたら、こんな感じだったのかなぁ」 一人っ子の私は、小さな頃から兄貴が欲しいと思っていた。
/181ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加