姿なき声

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父と母は離婚する事になった。 父は別居して少し時間をおいて考えようと言っていたが、心の整理をつけてきた母は聞き入れなかった。 「もう遅すぎます」 それが、母の答えだった。 それならば、私も一緒に出て行くと言ったけれど、自分では高校を卒業させてあげられないので残ってほしいと泣く母と悲しそうに真っ直ぐ私を見つめる父の瞳に、それ以上の言葉を発する事ができなくなってしまった。 「高校は卒業してほしいの」 そう繰り返されると確かに捜したばかりの仕事と家では、私は負担になってしまうだろう。 私は下を向く事しかできなかった。 「わかったよ…」 あとは、大人二人の話し合いだからと二階に上がるように促せられて、私は部屋に戻ってきた。 クッションに顔をうずめて、何か考えるというよりは、頭の中が真っ白な状態だった。 「ついてけば?」 「…」
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