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次いで男の視界に映ったのは、実の髪だった。
濁ったような、何かが混ざったような、黒に近い茶髪だった。
だがもう少しで顔もハッキリ見えると言うところで、実はそこで立ち止まってしまった。
かつり、
そしてふと、実のものとはまた違う靴音が響いた。
未だ顔が闇に隠れる位置で立ち止まった実の後ろから、もう一人
その人物は実よりも後ろに居る筈なのに、微かな光源にも反射する鮮やかな金糸の髪色でその存在が分かりやすいものとなっていた。
その人物はかつりかつりと、靴音を隠しもせずに闇からはい出て来る。
その片手にはスーツケースが掴まれており、どうやらこの人物が商品の受け渡しをするようだと、男は理解した。
「藤崎 津樹(ふじさき つき)にございます。以後、お見知り置きを」
鮮やかなアメジストの瞳だった。
随分と長身で、津樹と名乗ったこの男の背丈は実よりも頭一つ大きい
その背を悠然と折りお辞儀をすると、男達も慌てて向かって背を曲げた。
「例のモノはこの中にございます。ご確認下さい」
姿勢を再度正すと、津樹はツカツカと男に近寄りその、例のモノが入ったスーツケースを手渡す。
灰色の、ごく一般的な、シンプルなスーツケースだ。
男は自分が手に持っていたスーツケースを地面に置き、津樹が差し出したそれを手に取る。
「…、?」
その時、たまたまだった。
男はもう一人、誰か違う者が奥にいることに気が付いたのだ。
その人物がいるのは、実が社会見学として連れて来た弟とその部下である二人の、隣にいたようだった。
光源が月光だけというこの中にいる為に、先程あの二人を見たときには気が付けなかったのだ。
その人物は、背が低い…というよりは、どうやら座っているらしい
よくよく耳を澄ませてみれば何かプラスチック同士が小さくぶつかる音や咀嚼する音、それと微かに話し声が聞こえる。
だが一体何を話しているのかまでは、聞き取れはしなかった。
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