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雲の具合からだろうか、それとも時間の具合か。月光りが傾き、先程は見えなかった彼等が徐々に男の視界にも明確に映りやすくなってきている。
だというのに真は未だ闇の中で
光りなど無い、闇に溶け込む暗い闇色の髪をしているせいで、その存在は朧げにしか見えない。
男は、様、という敬称付けられた呼び方に、もしかすると彼がクロミヤファミリー次期ボスの、実の弟なのかもしれないと予想をつけた。
「…理由は何であれ、今は大事な取り引きの最中です。なるべくお静かにお願いいたします」
「俺だってちゃんと我慢してた。アイツがしつこいからいけないんだ」
真が、微かに斜め下に視線を落とす。
その場にいた殆どの人物が、真の目線を追う。勿論、男もその視線を辿った。
そこは先程、男が社会見学者であろう三人目を見つけた位置。
先ほどは津樹がちょうど良い具合に壁になっていて麻央の存在までしか確認出来なかったが、今 津樹は体を真へと向けている為男にもはっきりとよく見えた。
そこには、
クマさん柄の可愛らしいレジャーシートが敷かれていた。
(…………………………… は、?)
クマさんだ。
熊ではない。クマだ。何となくわかっていただきたい。
確かに風圧のせいだろう、多少は乱れている
が、それでも、小学生が遠足などに わあ可愛い私コレにするー!という単純な理由で持って行くような可愛らしいなんかもう本当に可愛らしい感じの、
…もう敢えて言おう。
この場にはかなり似つかわしくない、180度世界観が違う、主に女の子が好きそうなクマさん柄のレジャーシートが、コンクリートの上に敷かれているのだ。
(……………何で?)
男だけでなく、護衛達も同じ考えだった。
ここは、一歩どころか半歩間違えるだけで命が吹き飛ぶ危ない現場だ。
しかも相手は残酷残忍で有名な黒宮ファミリー
慎重にしないといけないのに慎重どころか慎重過ぎて何が慎重なのか分からなくなってきた男にとって、これは衝撃的過ぎた。
だって、クマさんなんだもん。
超恐い事で有名なマフィアとの緊迫した取り引きを、クマさん柄のレジャーシートを敷いて観戦するとは誰が思うか
少なくとも、男は考えも着かなかったつか考えちゃいけない気がした。
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