プロローグ

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 男には未だ何が起こっているのかを理解していないが、麻央が怒っているのはその様子から感じ取れる。 彼が何をして、どうして叩き付けられたのかは今の男には知れなかったが、その内乱が起きんばかりの麻央の気迫に、少々泣きかけた。  自分は極力彼等の機嫌を損ねないように動いていたのに、まさか仲間内で喧嘩なんて! マフィア同士の喧嘩というのは、喧嘩という名の殺し合いが殆どである。 それが身内同士ならまだそれなりに手加減というものが期待できたが、何を隠そう。彼等は黒宮ファミリーという残酷非道なマフィアの一員だ。 「真、何すんだよ!!」 その怒鳴り声に、息を飲んだのは男と護衛達だった。  あの黒宮ファミリーの同士の喧嘩なんて、冗談じゃない きっと周りにも被害が飛ぶ。男は無意識に一歩後ずさった。 だが、その瞬間、  「見ろよコレ!弁当がぐちゃぐちゃじゃんか!!」 (……………………………………ん?) 男は、首を傾げた。 護衛の二人も、似たような反応である。  弁当。…弁当? 弁当。それは外出先で食べるように箱などに詰めて持っていく食べ物だ。  それくらい知ってる。なめんなよバカ。おれってば誰に言ってるんだろう。 男にはよく分からなかった。 麻央は若干泣きそうな声で怒鳴り、ずい、その両手に持っていたモノの蓋を開けて真に見せ付ける。 丁寧に見えやすいようにと傾けられていた為、男にもよく見えた。 確かにぐちゃぐちゃになっているが、それでも一体何なのかは、男にも識別出来た。 型崩れしているが色の良い卵焼きに、桃色のサクラのかまぼこ。緑の森をつくっていたブロッコリーに、鮭味なのだろうふりかけがかかったご飯。エトセトラ 確かにそれは一般に弁当と呼ばれるモノで、きっと麻央は弁当をあのクマのレジャーシートに座って食べていたのだろうと思う。
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