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夏の夜。屋台の灯りが人々を照らしている。
金魚すくいに興じる人やりんご飴を美味しそうに齧る人がいて、子ども達は様々なキャラクターのお面を着けてはしゃいでいた。
今日はこの島で月一度行われる縁日祭だ。縁日の祭は、信号機すら無いこの島では唯一の娯楽なのだ。
大勢の島の人々が集まっている為、いつもは人気の無い神社は人で溢れている。
人間観察がてら祭に来た私は、ふらふらと広い境内を移動していた。
この島に来て五年。顔馴染みや近所の人をちらほら見掛ける。彼らもまた、例の如く祭を楽しんでいるようだ。
『楽しんでいるかね?』
不意に、背後から声を掛けられて振り返る。
声の主はあろう事か、賽銭箱の上に腰掛けていた。
私は一礼して、「お久し振りですね」と返事をした。
『やあ、一年ぶりかな』
「そうですね」
私は歩み寄って、隣に並んだ。
この人とは、五年前の縁日祭の時に出会った。それから一年に一度、夏のこの日にしか会うことは無かったが、いつも狐のお面を被っていた。その為私は、この一風変わった人物を狐面の人と呼んでいた。
『この一年、どうだった?』
「特に変わり無いですよ。同じような毎日です」
『そうかい?なら、祭の時ぐらい楽しめばいいじゃないか』
その言葉に、私は眉を寄せた。
「……正直な話、私は島民が何故この祭を続けているのか、分からないんです」
『分からない?』
「はい。確かに唯一の娯楽、という事もあるでしょうが、島の人口は年々減少しています。今や、私がこの島に来た五年前ほどの活気もありません。人手が少なければ、リスクが増えるだけです」
私は極めて理屈っぽい意見を述べた。
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