【R】魔法の呪文

3/4
前へ
/13ページ
次へ
『ちちんぷいぷい…ちちんぷいぷい…』 いつもの様に魔法の呪文を唱えようとするけど、その後の言葉が出てこない。 ふーっと、一つ息をつくと、それ以上唱えることをせず、クッキーをオーブンの中へ入れる。 出来上がったクッキーは味気なく、食べただけで元気が出るどころか、寂しさが増した。 『……美味しくないなぁ』 一かけ食べただけで手が止まる。それでも近くにいた鳥たちは興味深そうにクッキーの近くを跳ねている。 『いいよ、みんなお食べ』 そう言って、クッキーを砕いて撒くと皆嬉しそうに集まってきた。 『美味しくないよね…ごめんね』 「そう思うんなら人にやるなよ。この場合は鳥か」 急に聞こえた声に、驚いて振り向くと、そこには幼なじみの変態がいた。 『何でいるのよ』 「べつに幼なじみの家にきたって良いじゃん。いつものことだろ」 いつものこと。 それが耳に残る。いつも、って何よ。いつもなんて、いつでも変わることじゃない。 不変なんてあり得ない。 「ばーか。なに泣きそうな顔してんだよ」 そう言われて初めて自分の表情に気付いた。 「俺に彼女が出来ても、愛人が出来ても、奥さんが出来ても、俺とお前は幼なじみってことはかわんねぇよ」 あぁ…そうか。すっごく認めたくないけど、この幼なじみに彼女が出来て、置いていかれた気持ちになってたのか。 それをこんな変態に知られたのが一番腹が立つ。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加