5人が本棚に入れています
本棚に追加
『ちちんぷいぷい…ちちんぷいぷい…』
いつもの様に魔法の呪文を唱えようとするけど、その後の言葉が出てこない。
ふーっと、一つ息をつくと、それ以上唱えることをせず、クッキーをオーブンの中へ入れる。
出来上がったクッキーは味気なく、食べただけで元気が出るどころか、寂しさが増した。
『……美味しくないなぁ』
一かけ食べただけで手が止まる。それでも近くにいた鳥たちは興味深そうにクッキーの近くを跳ねている。
『いいよ、みんなお食べ』
そう言って、クッキーを砕いて撒くと皆嬉しそうに集まってきた。
『美味しくないよね…ごめんね』
「そう思うんなら人にやるなよ。この場合は鳥か」
急に聞こえた声に、驚いて振り向くと、そこには幼なじみの変態がいた。
『何でいるのよ』
「べつに幼なじみの家にきたって良いじゃん。いつものことだろ」
いつものこと。
それが耳に残る。いつも、って何よ。いつもなんて、いつでも変わることじゃない。
不変なんてあり得ない。
「ばーか。なに泣きそうな顔してんだよ」
そう言われて初めて自分の表情に気付いた。
「俺に彼女が出来ても、愛人が出来ても、奥さんが出来ても、俺とお前は幼なじみってことはかわんねぇよ」
あぁ…そうか。すっごく認めたくないけど、この幼なじみに彼女が出来て、置いていかれた気持ちになってたのか。
それをこんな変態に知られたのが一番腹が立つ。
最初のコメントを投稿しよう!