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「今日はこれで帰るとするよ。」
後ろ髪を引かれながらも、心を鬼にし想いを断ち切り屯所へ向かった。
―――――――――――
屯所内に入ると、途端に気が滅入る。
自分の心がこんなにも弱い物だったのかと自嘲していると、今一番会いたくない相手の一人が向こうから歩いてくるのが見えた。
「【山南先生】もう、お身体の方はよろしいんですか?」
「お気遣い有難うございます。【伊東先生】」
何時も決まって自分を【先生】と呼ぶ伊東。
そんな風に思っていないのは、自分が一番良く分かっている。
「藤堂君から聞いたかもしれませんが、今度、私の講義に足を運んでいただけませんか?是非博識な山南先生のお話も伺いたいものです。」
「私のような者が行っても、先生のお役に立てるようなことはないでしょう。」
伊東の狙いは分かっていた。
近藤派の自分が伊東の講義に出入りすることになったら、平隊士たちの中には益々伊東に傾倒する者も出てくるだろう。
【仏の山南】が、隊士たちから好かれているということは知っている。
だからこそ、自分の身の振り方一つで局内が変化してしまうことも重々承知しているつもりだ。
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