一章:初めてのおつかい

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   息を潜めながら覗き見た結果、そこにランポスの姿は無かった。  見晴らしが良いだけあってランポスが隠れられそうな場所は無かったし、獣臭のような物も無い。  かくして安全が確立され、俺の桃源郷へも一歩前進したという訳である。  良かった良かった。しかし本当に俺は、神に祝福されている子らしい。自分の幸運が怖い。  何か手痛いしっぺ返しをくらうような…………はは、そんなはず……ない、よね?  この先の未来に若干の不安を抱きながらも、とりあえずはキノコが先!  不安に曇る頭を一度払い、先のエリアにと進むことにした。  身を隠していた入り口から体を出し、一直線に次のエリアに向かう。 モンスターがいないので、辺りを憚ることなく進める。それは結構ありがたい事だな、と感じた。  モンスターらしいモンスターに出くわしていないせいか、気分は遠足。ふんふん鼻歌を歌いながら草を掻き分け、スキップで進む。  目的のエリアには草食獣の目撃情報ばかり。そりゃ気も軽くなる。  だからだろう。俺は目的のエリアに着いた途端、警戒もクソもなく、高ぶるばかりのテンションを叩きつけるように走り出した。 「特産キノコーっ! 好きだぁぁ! 好きで好きで好きでしょうがない! 結婚してくれぇぇぇ!!」  意味不明、支離滅裂な口上を垂れながらの爆走。しかしそれと同時に目標のブツを探す。  キノコの群れ共が生えているのは日陰のジメジメした所だから――― 「―――ッッ!!」  瞬間、轟く雄叫び。  森と丘の連なるこの土地全体を揺るがすような絶叫。  それは、俺が目当ての特産キノコを見つけた勝ち鬨の声だった……。
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