一章:初めてのおつかい

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  「ワシャシャシャシャシャ!」  必死。もう超必死。  鬼気迫る勢いでキノコの群れの中から特産キノコだけをむしり取る。他のキノコには一切目もくれず、ただ特産キノコだけを。  プロの選別人さながらの速度と正確さを以て、特産キノコのみを採取する。  ―――結局目当てのキノコは、森と丘の境目にある石の裏側にあった。確かにそこは日陰でジメジメしており、湿気は十分のようだった。  ここにならキノコが生えても不思議ではない。  そのキノコ群の中に、きゃつは堂々と君臨なさっていたのだ。しかも沢山。  一本の価値が半端でない金の元が沢山あったのだから、そりゃあ興奮するなって方が難しい。こっちは金のために命賭けてんだから。  滴り落ちる涎をそのままに、野性的に採取を敢行する。しかし今後の繁殖を考えると、特産キノコを少しくらい残しておいた方が良いかもしれない。  俺は一旦手を止め、戦果を確認する。 「…………うん」  手元には大きな特産キノコが10本。成熟したそれは見るからに高価そうだ。 「うん、これだけあれば充分かな」  眼下にはキノコの群れ。その中には特産キノコが五本ほど残されている。  繁殖を考え、絶対数を増やすならこの五本の存在は重要だ。 「でも―――」  でも、だ。  でも――― 「今が楽しければいいじゃない。あとの事は色んな人に任せた! そうだ、困った時の人頼みっ!!」  でも、後の人間の幸せと、今からの俺の幸せ。  どちらが大切で重要なのかは、天秤にかけるまでもないだろう。  俺は下品な笑みを貼り付けたまま、残りの五本を勢いよく引き抜いた。  忘れてはならない。  これは私欲ではない。俺は義賊で、義賊は困った民衆に金を与える存在だという事を。  そして俺が他人の幸福を優先するほど、出来た人間ではないという事を。
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