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「・・・のさん、矢野さん!」 背後から、腕をつかまれて小さな悲鳴を漏らす。 「矢野さん!」 体を反転させられるとそこには額に汗を浮かばせた田島さんが息を切らせていた。 「た・・じまさん・・ど、どうかしたんですか?」 「どうかしたのは矢野さんの方でしょ! さっきから名前呼んでもちっとも返事しないし、それに怪我してるみたいだし」 いつも優しい田島さんが凄い剣幕で私に詰め寄る。 「あの・・すみません。さっき転んじゃって」 田島さんを心配させてることに気が付いて、咄嗟に嘘をつく。 「転んで? 急いでたの?急用?」 「あ、いえ、何にもないところで。私ボーっとしてるから」 「そんな事はないけれど、本当に転んだだけ? 昨日の今日だから心配になって連絡したんだけど携帯も繋がらなかったし」 「すみません」 ネットカフェでマナーモードにしたままだった。 バッグの中を確認すると、3回ほど田島さんからの電話が入っていた。 「マナーモードにしてて気づかなかったです。 すみません」 「いや、こっちが勝手に心配して電話しただけだから、そんなに謝られると申し訳ないよ。 今日はもう帰るの?」 「はい。転んじゃったし、手当もしたいんで」 「それならうちの事務所すぐだから手当してあげるよ」 「いえ、そんな」 「大丈夫。まだみんな残ってるし」 ますますそんなところに行けるわけがない。 断ろうとすると、手を繋がれて引っ張られる。 「あ、いや田島さん」 「洋服も汚れてるみたいだし。手当もしっかりしないと破傷風とかなったら大変だから。 事務所の女の子が居るから、大丈夫だよ」 強引に手を引かれる。 おとなしくついて行くしかなさそうだ。
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