春。

4/7
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 俺が拳を振り上げると氷川はうずくまり、小声で呪文のようにごめんなさいと繰り返した。  全く、殴られるのが嫌だったら黙ってろっての。俺は拳を収め、後ろにある手すりに寄りかかる。 「いつまでうずくまってるんだよ」 「ごめんなさいごめんなさい……。あっ、もう平気みたいですね」 「ったく。面倒だな本当」  俺は氷川に背を向け、屋上から広がる景色に目を向ける。  この学園は高く、屋上はそれなりに景色がいい。近くにある公園はもちろん、よく晴れた日には隣町までうっすらと見える。  高いこともあって風は多少強いが、逆に俺はそれが気持ちよく、暇があったらよく屋上に足を運んでいる。  まぁ、休み時間は人が多いからこういう授業中しか来ないけど。  今日は天気がいいので隣町がうっすらと見える。なんだか遠くを見ていると、なにもかもがどうでもよくなってくる。  面倒な学校に面倒な友人、そしてこれからの将来。  なにもかも、どうでもよくなって…… 「先輩、何を見てるんですか?」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!