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ここアヴァロン国はアヴァロン王家が治める防壁に囲まれた小国。
小さな街のような国ではあるが、国民は日々の恩恵に感謝し暮らしている今のこの時世では珍しく穏やかな国である。
先ほどの襲撃により一時避難していた民もほとんど元の穏やかさを取り戻してきていた。
(…こんな時代に珍しい国だな)
「やあ、姫様。大丈夫だったかい?」
「ええ、大丈夫よ。皆も無事だった?」
「あー!ひめさまぁ~、ぼくなかなったんだよぉ」
「まぁ、強いのね!エライエライ」
城へ着くまでの行く先々で声を掛けられ、その声に丁寧に答えていく姫。
(一人ひとりと話して…変わった姫様)
「変な王女とお思い?」
「え…?」
考えていたことを、言い当てられて動揺する。
クスリと笑うと姫様は呟く。
「…民は家族よ。家族と話さない人っているかしら?」
本来、王家の人間は国民とは直接話をすることはない。
それはどんな小国でも共通のことだった。
「では、私は着替えてまいりますので、一度失礼致します。後ほど、改めてご挨拶致しますわ。それまでどうぞ体を休めてください」
静かに頭を下げると、彼女の絹のような金色の髪がサラサラと音を立てるように流れた。
「ほ、ほら、貴方はここで待ってなさいよ!!退屈だからって、城の中を動き回ったりしないでよ!」
先ほどの長身の少女に目を合わせると顔を赤らめてとツンと顔を背けられた。
(嫌われてるのか…?)
小柄の少女は俺の服の袖をクイクイと引っ張ると上目遣いで目をウルウルさせて見上げている。
「お兄たま、寂しくても泣いてはいけませんよ?ミルフィが呼びに来るのを待っていてください」
「ミ、ミル…?」
「あ、私の名前ですぅ~!覚えてくださいね?お兄たま」
「わ、私の名前は、ガレット。と、特別に呼ばせてあげてもいいけどっ!」
「は、はぁ…」
…―――。
部屋に通されると、俺は大剣を抜き出しかろうじてカーテンの隙間から漏れでる月の光を反射させた。
「これで…大王を…」
シンとした部屋の中、俺の声だけが静かに響いた。
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