序章その壱 日常と僅かな変化

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東京都内に存在する高崎日本歴史博物館は都内有数の広さと、江戸時代前期から明治にかけての美術品や工芸品、考古資料が充実している私立博物館である。 一般が立ち入り禁止の地下には研究所があり、まだ解明されていない考古品の研究や、損傷の激しい考古品の修復などが日夜行われていた。 2×××年9月3日 午後3時―― まだ残暑の厳しい季節なのだが、地下では日の光さえ入らぬ上、空調が管理されたこの部屋では快適ともいえる温度が保たれている。 広さは十分にあるのだが、地上の博物館と比べると、人に見せられないくらいごちゃごちゃとしていた。 中には三十人近くの人がいるのだが会話は一切なく静かだ。 物音といえばパソコンのキーを打つ音や、書き物をする音くらいしか聞こえない。 その地下室の端に置かれている机では、一人の学芸員が作業をしていた。 *
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