序章その壱 日常と僅かな変化

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四人は食事できるような広さはある机の半分以上のスペースに薄汚れた褐色の布が敷かれている。 その布の上には、陶器の欠片のようなものが山積みに置かれており、学芸員がピンセットを使い、手慣れた手つきで陶器の欠片を並べている。 この学芸員は寝癖を手入れしていないのか、染められていない黒髪があっちこっちに跳ねていて、肩に届くか届かないくらいの中途半端な長さ。 肌はやはり職業柄、室内にこもっているため、全く日焼けをしておらず白い。 『今日マジ疲れた。やってらんねぇ』的な倦怠感たっぷりの雰囲気を漂わしているのだが、よくよく見れば整った綺麗な顔立ちをしていた。 性別はこれでも女。 年は22歳で、今年大卒して、入社半年目の新人学芸員である。 彼女の名は高崎幸実(タカサキ ユキミ)。 彼女の名字の高崎と、博物館の高崎が同じ名前なのは偶然ではない。 幸実はこの博物館の館長でもある高崎藤一郎の一人娘であった。 一応、スーツのズボンにカッターシャツを着て、その上に白衣を羽織っていたが、 化粧を全くしていないことでお洒落にはまるで関心がないということがわかる。 中性的な顔立ちの上、幸実という男でも通用する名なので、男と勘違いされることも多々あった。 *
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