愛撫

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 「…何すんのよ!?」  大声を出すとお客様に聞こえるため、私は小声で精一杯の威嚇を表明した。  「星崎さんはよしよししたくなるほど、不細工だってことだよ♪」  「…。」  「星崎さん??おつかれ~♪ばいばい♪」  「…知らない。もう知らない。」  私はそのままぐるんと方向転換し、カランとドアを開けてスタスタと坂を上った。  私が開けたドアが背後で閉まる音がしたのは、坂を10m程登ったときだった。   ちゃんとドアは閉まっただろうか?  そんなことはどうでも良かった。  なんだか無性にイライラしていた。  ヒールなのに速く歩き過ぎだせいで、マンホールの窪みのところで足をくじいた。  痛いけれど、痛いけれどそれでも歩いた。  iPodはポケットに入れたまま。  なんだろうこの変な感じ。  訳がわからないけど、一刻も早くお風呂に入って今日は寝たい。    あいつは絶対、この店で働くべき人間じゃない!  だけど私は、高橋に「市原泰孝を辞めさせて下さい」なんて、言える気がちっともしなかった。  その理由がわからないから、私はどんどん速足になった。
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