哀しい眼

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そこは、決して大きくはない駅のそばのスクランブル交差点―。 昼間は、細い道の割には車通りがあり、通行人と車両は常に敵対関係にある。 狭い本屋から出るとすぐに道路があっていつも危ない思いをする。  改札を出るとすぐ、小さなコンビニがある。 電鉄系のコンビニだからか、この店は夜の11時には閉まり、辺りは飲み屋の明かりだけで賑わう。  お好み焼き屋やスナック、小さな居酒屋が建ち並ぶ。  私、星崎千里(ほしざきちさと)が勤める店「カフェ&バー Garden Mode」は、このスクランブル交差点に面していた。 ガラス張りの外装には、店頭に上品に設けてある植木スペースの木々の小枝と、行き交う車の影が映っている。  私がここに来てもう4年。高校を卒業して、アルバイトとしてこの店で働き始めた。 Garden Modeは有名チェーン店ではないが、全国に10数店舗ある。セレブな経営者が趣味的にやっているチェーン店なのだ。 私は去年、アルバイトからここの副店長として正規雇用された。ここではない、1号店オープンから5年。どうも私はアルバイトとして十分お局様になっていたらしい。5年間で最初に正規雇用した社員で残っているのは、うちの現店長と、数名くらいしかいないらしい。 社長はたまにやって来るが、経営戦略なんかを語るわけでもなく、「やってる~?」と軽いノリでコーヒーを飲んで15分で帰る。いつも社長の横には毎回違った連れがいるが、紹介されたことはない。
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