危険な反発

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 18時。  夕食を食べに近所の大学の学生や、家族連れが現れ始めた頃、市原も出勤して来た。  「おはようございまーーす。あ!星崎さん!いや、千里!おはよ♪」  「おはよ。って、何が『千里』よ。一応、上司なんですけど。」  最年長の牧野だけは皆、『牧野さん』と呼んでいたが、松下翔は『翔』や『翔くん』、青山まりなは『まりな』、村西典枝(20歳の大学生)は『ノリ』、荒井崇(23歳の大学院生)は『タカ』…というように、アルバイトスタッフのほとんどは下の名前で呼ばれている。  しかし私は副店長だからか、下の名前では呼ばれない。下の名前で呼んでくれていた昔の仲間は、もう大学を卒業して引っ越したり、他のアルバイトに変わったりして辞めて行ってしまった。  私もアルバイトの頃に戻ったみたいだ…。  懐かしさと安心感が沸いて来る。    「これから千里のこと、千里って呼ぶから!」  馴れ馴れしく市原は私の肩に手を置いた。  ぽんっ、とではない。  べちゃっ、と。  市原の触れ方はセクハラ親父のそれではなく、まるで甘える子供のそれなのだ。  猫か犬のように私の周りをぐるぐると回る。
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