哀しい眼

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 ある初秋の午後。店長の高橋はある少年を店に連れて来た。  「星崎さん、こいつ、市原泰孝ってんだけど、今度アルバイトとして雇おうかと思ってるんだ。」  連れて来られた少年は、恥ずかしそうに高橋を見たりこちらを見たり、キョロキョロしていた。というか、へにゃへにゃしていた。高橋の服の裾を引っ張ったり、自分の頭を掻いたりしている。  「ぁ、それはどうも。初めまして、副店長の星崎千里です。」  市原は小さく、どうも、と応えた。  髪の色は明るく、その間からはピアスが覗いている。くりんと大きな二重の瞳に、華奢で小柄な体。その眼は透き通っていて綺麗だが、どこか哀しい眼をしている。見た目、16、7歳くらいか。私より随分と子供に見えた。  「こいつ、めちゃめちゃ人見知りなんだ。でも慣れたらすげー明るくて面白い奴だから!仲良くしてやってよ。」と、高橋は付け加えた。  「よろしくおねがいしまーす。」  市原という男の子の声は変声期があったのかさえ疑わしい程、可愛い声をしていた。  「ヤスはこう見えてもう20歳なんだ。」  高橋は市原をヤスと呼んだ。
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