哀しい眼

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 事務所の机にひとつ丸椅子を足し、そこに市原を座らせた。  「えーっと、説明用の資料は…」 私は市原に背を向けて資料を探した。  「星崎さん。」  「へ?」  私は突然はっきりと口を開いた市原に驚いて振り返る。  「星崎さんてさぁ…」  哀しい、でも麗しく仔犬のような眼は、先程とは変わってまっすぐに私に向けられていた。  「な、何?」  市原が少し照れたような表情を浮かべる。やはりへにゃへにゃしている。  悔しいが、可愛い。  何を言い出すんだろう、この子は。  「星崎さんて…、   足すっげ太いね!!!」  はい!?  一瞬ぽかーんとして私はきっと間抜けな顔で口を開けっ放しにしていた。  「な、何を言い出すかと思ったら、そーいうこと!?言われなくてもわかってます!!初対面でいきなり言うことじゃないでしょ?」  「ぁー…ごめん。ごめんなさい。オレ、思ったことぜんぶすぐ口に出ちゃうんだー。」  「お客様にそーいうことは絶対、言わないでよ?」  「うん。気をつける。」  なんでタメ口なんだろうこの子は。一応私、上司で年上なんだけどな。まったく、店長はなんでこんな子を連れて来たんだろう…。  私は高橋を怨みながらも資料を持って席に着こうとした、  ぐちゃっ!!  へ!?何今の感触!!?
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