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尻の下に、椅子のクッションとはとても思えない違和感を感じる。硬くもなく、柔らかくもない、何か潰してはいけないようなもの…。
「っいって~~!!」
市原を見ると、彼は顔を真っ赤にして自分の両人差し指に息を吹きかけていた。
何が起こった?私、何かした?なんで市原くんは痛がってるの??
一瞬パニックになって私は市原に謝りかけたが、市原の手の形から彼が何をしでかしたのか理解できた。
「星崎さんにカンチョーしようと思ったのに、失敗した!!」
理解ができない、この小僧。全くもって理解不能である。
「何やってんのよバカ!!私が重たいってことくらい、見てわかったんでしょうが!あんたの細い指なんて折れちゃうわよ!」
「ごめんなさ~い。だぁって、なんか星崎さんのお尻見てたら、無性にカンチョーしたくなったんだもぉん。」
こいつ、ものすごい人見知りかと思ったのに、ズケズケと土足で私に踏み込んで来る!ありえない…。
「わかったから、ちょっとは我慢しなさい。ここは職場なのよ?幼稚園じゃないの。」
もともと私はしっかりなんてしてない。いつも妹分として可愛がられて来た性格なのに。なんでこんなこと言ってるんだろう…。
「はぁぃ…。」
それからしばらく市原は黙って私の説明を聞いていた。
髪の色はこれ以上明るくしないこと、ピアスはワンポイント程度の小振りのものに留めること、爪は清潔にして短く切ること…。
私の言う注意点は、素直に聞き入れる様子で、はい、はい、と頷いて大人しくしていた。
さっきまでのお調子者はどこへ行ったんだろう…。
お客様への接し方や店のシステム、提供しているサービスの説明をしたときも、真面目に聞いていた。
「はい、これが最後の項目ね。防犯について。レジ内は常に5万円以下の両替金に保つこと。それ以上になった場合は必ず集金袋に入れて金庫へ入れる。わかった?」
「…。」
市原からの返事がない。視線はしっかりと印刷された活字を追っているというのに。
「ねぇ、聞いてる?」
「ぁ、はい。」
市原の眼は、私をまっすぐ見つめていたときよりも霞んでいた。
「ねぇ、もしかして市原くん。」
「なぁに?星崎さん。」
「私の話がつまんなくて、長くて眠たくて、意識とんでた?」
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