哀しい眼

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 市原の表情はみるみる緩み、照れたように赤くなった。  「バレた?」  「バレた?、じゃないわよ!ちゃんと理解できたの?質問はない?」  「うんー。だいじょーぶー。」  市原は顔元にピースをつくっておどけて見せた。  「ほんとかしら。市原くん、ちょっと爪が長いから、次回までに切って来てね。それから靴は私物を使ってもらうから綺麗に磨いて来ること。後、このスタッフ登録用紙を書いて来てね。」  私は市原に複写になった用紙を一部渡した。  「げ!オレ鞄持って来てねぇ~!」  市原はそう言うと、スタッフ登録用紙を六つ程度に細かく乱雑に折り、ズボンのポケットに収めた。  一応それ、本部に送るやつなんだけどなぁ…。  「ねぇ星崎さん。」  「今度は何!?」  自然と、私の口から苛立ったような声で返事が飛び出た。  すると市原が突然私の顔の目の前まで自分の顔を近づけた。  「な、何よ。近くない?」  鼻と鼻がぶつかりそうだ。  キスするとき以外、こんな至近距離に顔があることなんて、今までなかった。  こうして顔を並べていると、市原の顔がいかに小さいかがわかる。こんなに近いのに、市原の目や鼻や口は、私の視界のほぼ真ん中で全部見える。  「なんなのよ。」  私の背後には本棚があり、横には事務机がある。逃げようとすれば、顔が市原とぶつかることは否めない。  市原は黒目をぐるぐるさせて、私の顔をまじまじと見ている。  到底、キスをするムードではないことはこの鈍感な私にもわかった。  もしくはそう見せかけてキスして、私をからかおうとか…。まさかそこまではしないだろう。  「星崎さんてさ、セックスしたこと、ある?」   …。  は!?意味わかんない意味わかんない。なんなの、こいつ。今日初対面だよね。  市原はぐんと顔を遠ざけて、  「でもおっぱいはちょっとありそお。でも、デブだしな。」  と小声で呟いた。  「失礼にも程があるでしょ!?それってさ、私がデブで不細工で足が太いから、今まで彼氏なんてできたことなくて、どーせまだ処女なんだろうなってことだよね?」  「正解~♪」    わかった。こいつはとことん変わり者だということが。
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